オピニオン


当院でのキャリア形成の支援について

経済産業省「おもてなし経営企業選」に選ばれて

 昨年、経済産業省「平成25年度おもてなし経営企業選」で全国28社のうちの1つに選ばれました。皆さん、「おもてなし」と聞くと、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」をすぐに連想されると思いますが、この賞は、あのプレゼンテーション以前からある賞で、流行を追ったわけではありません。この賞を頂いたというと「接遇がすばらしいのですか。」とよく尋ねられます。しかし、この賞の主旨は少し違い、次の3つの審査ポイントがあります。(1)社員の意欲と能力を最大限に引き出し(2)地域社会との関わりを大切にしながら(3)顧客に対して高付加価値化・差別化サービスを提供する。以上の3つです。つまり、職員のモチベーションをどうやって上げるかが大きなポイントになっています。

 【CSとESは両立するか】

 CS(顧客満足度)とES(職員満足度)は両立するかとよく議論になります。一昔前は「CSを上げるのにはESを犠牲にするのは当然だ。」と言う企業も数多く見られました。しかしその多くはうまくいかなかったと聞いています。特に私達のような職業では低いESで患者さんに接しても高いCSを期待できません。むしろ「CSはESを超えない」というのが本当の所だと思っています。そこで当院では、社員の意欲と能力を最大限に生かすことを重点に置いて、まずはESを上げることに力を注いできました。それは当院の基本方針や運営方針にも明記されています。

 【社員の意欲と能力を最大限に生かすしくみづくり】

 先ほど述べました通り、「おもてなし経営企業選」の選考基準は3つあり、その中で一番重要なのは「社員の意欲と能力を最大限に引き出す」ことです。その点に関しては当院が、「職員一人ひとりが、やりがい、働きがいを持って働き続けられる職場づくり」を目指してきたことが評価されたのだと思います。具体的には、大きく分けて2つの施策があります。①やりがい働きがいのある職場づくりとして「キャリア形成の支援」、②働き続けられる職場づくりとして「ワーク・ライフ・バランスの充実」です。ワーク・ライフ・バランスの充実に関しましては当誌「福岡県私設病院協会ニュース」平成25年10月号P12~P15に「第6回ワーク・ライフ・バランス大賞 優秀賞を受賞して ―今までの経緯、今後の課題―」として詳しく書いてありますので、そちらをご参照ください。今回は「キャリア形成の支援」について詳しく述べたいと思います。当院には人財育成基本方針があり、次のページの冒頭にこの指針を提示します。これはキャリア形成と同じ意味です。

 

キャリア形成の支援

 キャリア形成の支援を行うと、自己実現ができES(職員満足度)が向上します。さらに、医療レベルが向上しCS(顧客満足度)も向上します。写真は当院の大正時代の教育風景です。当時の文献によると、「診療は朝の9時から夜の9時まで。診療の合間を縫って若い先生が看護婦たちに座敷で医学を教えていた。」とあります。この頃から教育に力を入れる伝統があったことは嬉しい限りです。
 当院では、人は「財」であるという視点からキャリア形成の支援に2つの柱を据えています。現認教育の充実と、目標管理による能力開発です。

 
 【写真】当院の大正時代の教育風景

 1.現任教育の充実

 現任教育の充実、つまり専門職として勤務する上で必要な知識と技術を、プログラムに沿って教育指導することは大変重要な事です。

 【クリニカルラダー】

 従来は「卒後5年目研修」等、経年別教育を行っていました。しかし、個々の技量に合わせ教育するクリニカルラダーへ変更しました。ラダーとは「はしご」の意味です。新人、レベルⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、主任・課長、とレベルが分けられており、一段ずつ上のレベルへ登って行きます。この制度により自身の成長と到達目標が見え、キャリア形成のビジョンが持てます。1つのテーマでもレベル別の研修会を数回開かないといけないので、院内の教育委員会は大変です。しかし、教育を行うためには自らのスキルアップが必要とされるので、必然的に委員会メンバーも教育を通して育っています。又、メンバーは「皆が育っていく姿を見るのはとても楽しみだ。」と逆に喜びを感じ、モチベーションが上がっているようです。

 【プリセプターシップ】

 新人職員に1人の先輩(プリセプター)がつくプリセプターシップも行っています。プリセプターは新人の技術面と精神面の両方のフォローを行い、さらに各部署内のプリセプター会議で情報を共有します。この会議をすることにより新人が目標を達成するための軌道修正ができますし、不安や悩みに早期に気付き対処ができます。また、プリセプターの指導力の向上のため指導を受ける新人によるプリセプターの評価も行います。こうして1年間互いに成長を重ね、新人研修終了式を「めぶき」と名付けて年1回行います。プリセプターは手作りの修了証を渡し、努力をねぎらい、新人は感謝の念を表し、涙、涙の感動的な会です。

 【積極的な社外研修】

 当院の規模では教育したい事の講師のすべてを院内では揃えられませんので、院外研修の受講を奨励しています。当日は勤務扱いとし、参加費、交通費、日当を支給します。もちろん自分たちが講師になれる社内研修にも力を入れており、さらに社外から講師を招聘しての社内研修も開催しています。

 【芳野病院学会】

 毎年秋に院内の教育委員会が中心となって運営する、「芳野病院学会」を開催しています。各自、自分で決めたテーマで数題の発表があります。自分の深めたい領域を勉強でき、それを成果として発表し個人のモチベーションは高まります。この発表が外部での発表の良い訓練となっています。昨年全日本病院学会が福岡市であり、なんと14題もの研究発表を行いました。芳野病院学会で鍛えられた成果だと思います。

 2.目標管理制度による能力開発

 教育だけでなく、しっかりとした目標管理を行わないと人は育たず満足も得られません。

 【病院目標を個人目標へリンク】

 病院理念に基づき毎年、年度前に年間目標が発表されます。これを全19部署でSWOT分析し現状を把握します。SWOTとは、病院の強み(Strength)、弱み(Weakness)、外部環境の機会(Opportunity)、脅威(Threat)のことです。SWOTクロス分析から課題を抽出し戦略マップを作成し、バランスドスコアカード(BSC)を作ります。管理職を対象に院内で研修会を開き、看護部で先行後、数年かけて全部署でできるようになりました。このような分析を行うことにより組織全体の経営戦略から導かれる部署のあるべき姿と、現状とのギャップを認識できます。BSCでは、①学習と成長(質の向上、人材育成)の視点、②業務プロセス(業務改善)の視点、③顧客(患者、利用者、家族、職員)の視点、④財務の視点の4点から目標が立てられます。そして、①成果目標、②成果指標、③現状値、④目標値、⑤アクションプランが計画されます。

 【目標設定キックオフ大会】

 年度開始前に全部署長が一堂に会し、お互いのBSCを持ち寄り年間目標の発表会が行われます。各部署毎に発表し、他の様々な部署から意見が出されます。かなり厳しい意見も出され、後日修正されます。この会は朝9時から夕方5時まで行われ疲労困憊しますが、組織のベクトルを合わせる為のとても有意義な大会です。

 【キャリアファイル】

 当院の自慢は、職員全員が「キャリアファイル」を所持して常に活用している事です。キャリアファイルは、キャリアシートⅠ、Ⅱ、個人目標シートからなります。キャリアシートⅠは入職時の年齢、当院における異動、社内の委員会活動、学会発表、投稿、資格取得が1ページに記載され、一目で入職後の様子がわかります。キャリアシートⅡは研修受講記録で、受けた研修のテーマ、主催をすべて記録していきます。又、重要な研修のレポートも保存します。
 次に個人目標シートですが、部署目標から落とし込んだ個人の目標、行動計画、実施計画を詳しく記載します。病院目標からきた部署目標まで決まっていても、それをこのように個人の目標に落とし込む作業がないと、何の為の病院目標かわからなくなります。とても重要な作業です。

 【上司と共に相談しながら上を目指して個人目標を見直す】

 キャリアファイルの個人目標シートは、さらに実施計画に対し達成状況を書く欄があり、年2回の上司の個人面談によるチェックが有ります。当院はクリニカルラダー制があり、1つ上の段階のクラスを具体的に思い描くことができます。その達成状況を上司と一緒になって考え、修正することができます。上司も年2回の面談の時に各々コメントを書きます。PDCAサイクルによる継続的な評価修正が行われます。

 【自己考課表による公正な評価】

 当院では年2回自己考課表を上司に提出し、個人面談を行います。さらに同じ項目で上司が評価し、ギャップのある項目についてはとことん話し合い、実際の力を認識してもらいます。この評価は賞与に反映されます。もちろん上司の訓練も必要なので評価者のトレーニングも行いました。

 【副主任立候補制度と付属施設長の社内公募制度】

 当院では副主任は立候補制となっており、やってみたい人は手を挙げます。もちろんすべての人が誰でもなれるのではなく上司の意見も聞きます。そして2年間やってみて、続けられそうな人は続けたり、昇格の道もありますが、無理と判断された人はもとの無役に戻ります。
 又、隣接する住宅型有料老人ホーム「うみかぜ」やグループホーム「わかくさ」の施設長も社内公募です。うみかぜは当時の病棟の主任看護師が、わかくさは副主任の看護師が手を挙げました。そして施設長に就任して人事から財務まで管理し、経営を学んできます。しかもこれは片道切符ではなく、うみかぜの施設長は昨年秋、病棟の主任看護師として戻ってきて、当時科長職だった理学療法士と交代しました。こうして学んだ経営的手法が病棟で生かされ、病院にとっても良いことですし、本人にとってもモチベーションが高まります。

まとめ

 当院のキャリア形成の支援について述べてきました。現任教育の充実、つまり専門職として勤務する上で必要な知識と技術を、プログラムに沿って教育指導することは大変重要な事です。しかし教育だけ行ってもしっかりとした目標管理を行わないと効果は出ず、人は育たず満足も得られません。
 昨今、私たち医療業界は人材を採用するのが本当に難しくなっています。まずはキャリア開発の支援等でESを向上させ、人材の確保・定着をすすめ、医療の質の向上に努めたいものです。そうすることにより初めてCSが向上し、患者さんから選ばれ経営が安定化します。すると勤務環境改善に向けた投資もでき、ESが向上します。この一連のサイクルを1日も早く確立したいものです。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成27年3月号に掲載)

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第6回ワーク・ライフ・バランス大賞 優秀賞を受賞して

 昨年、第6回ワーク・ライフ・バランス大賞 優秀賞を受賞した。この賞は公益財団法人日本生産性本部により選出される全国規模の大きな賞である。大賞はアイエスエフネット㈱で就業困難者を積極的に採用するユニークな会社であった。優秀賞は第一生命保険・JR東日本・JR東日本リテイルネット・TOTOと当院で、大企業の中に混じり唯一、中小企業が割りこむことができ大変嬉しく思った。
  当院ではまず、子育て支援から始めたが、課題も出てきてワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)へと進んだ。WLBを積極的に推進し成果を上げ、軌道に乗るかと思われたが、又、課題が出てきて解決策を考えてきた。この繰り返しであったが、それにより、より良いものへと進化を続けられると思う。ここ10年間を振り返ってみた。

当院におけるWLB施策推進の経緯

 当院は病院という女性が多い職場のため、“結婚しても出産しても働き続けるにはどうしたら良いか“という課題が潜在的にあった。この解決へ向け、2004年3月より仕事と子育てのための施策(子育て支援)がスタートした。福岡県が推奨するトップによる『子育て応援宣言』にいち早く(18番目/4666社、2013年10月8日現在)登録し、その年より育児休業者が急増(前年までは年間平均1.7名だった育休取得者が平均6名に)。結婚・出産後も継続就業が当たり前という風土が根付き始めた。
 しかし、次第に子育て対象者以外の職員から不満の声も聞かれるようになってきた。そこで、子育て世代に限らず全ての職員にとって働きやすい職場環境の整備を目指し、WLBの充実へ向けた施策に着手した。具体的には、“次世代育成支援対策推進法”を参考に、男女問わない育休取得の推進や連続休暇取得の奨励などを整備し、行動計画も策定・提出した。(2007年・2011年の2回、目標を達成して“くるみんマーク”を取得)また、制度の導入と併せて、制度を利用しやすい風土づくりも意識して行なった。(職場復帰プログラムの実施、クラブ活動、役職者向けのWLB研修など)M字カーブとして知られる日本における女性の労働力率の推移と当院の職員数を比較すると、一般的に最も減少する世代(30代)が当院では最も多いという良好な成果が得られた。これが医療の質を保つ最大の要素である人材の獲得に繋がり、2010年には当院のような143床という中小病院では珍しく看護施設基準7:1を取得することができた。

WLB充実のための制度や取り組み

 当院で今まで行なってきたWLB施策について述べる。

(1)育児休業取得の奨励(2004年3月)
   男性も女性も両方ともが育児休業が取得しやすいような風土づくりを行なった。
   (新入職及び役職者オリエンテーション、職場復帰プログラムなど)
(2)短時間勤務制度の導入(2005年8月)
   6~7時間の正社員(通常は8時間)制度。対象者は小学校2年生未満の子ども及び介護が
   必要な家族をもつ職員。利用した分のみを時間給として控除。
(3)連続休暇取得奨励(2006年6月)
   1週間の休暇取得を奨励。一定の勤続年数があれば誰でも利用可(新卒採用は2年、既卒
   採用は1年)休暇理由は何でも可。
(4)シフトの多様化
   57種類の勤務シフト
   (メインのシフトはあるものの、フレキシブルに対応。勤務時間のダイバーシティ)
(5)WLB&ダイバーシティ推進室を設置(2010年4月)
   これからは性別・世代、価値観はもとより、働き方の多様性も受け入れることが、企業に
   とって戦略となりうるというトップの意向により、同推進室を設置。
   幅広い情報収集の他、社内や地域での事例発表なども実施。
(6)新入職員オリエンテーションでWLBやダイバーシティに関するレクチャーを実施
   2010年4月より新入職員対象のオリエンテーションにて、ワーク・ライフ・バランスや
   ダイバーシティに関する研修の実施を開始。
   また、2012年5月開催の全体研修(全職員対象)にダイバーシティの研修を実施。
   違いを受け入れる多様性の受容の風土づくりに力を注いでいる。

取り組みの結果

 職員1人1人のワーク・ライフ・バランスの充実が、仕事の効率を上げ、時間を確保する習慣を身につかせ、全体として生産性が向上した。同時に、辞めずに働き続けることができるという安心感から生活の質が高まり、生き方の選択肢が広がるなど職員満足度も向上した。
 更には、職員満足度の向上により人材を確保・定着させることができ、医療の質の向上から顧客満足度をも向上させることが出来た。

(1)男女ともに育休取得が定着した。
   女性:直近3年間では対象者の93 %が取得
   男性:直近3年間では対象者の 20 %が取得
(2)短時間勤務の導入等により多様なシフト(56種)で就業の難しい人材の確保に繋がった。
(3)全員職員が対象の連続休暇取得奨励制度により、年1回リフレッシュができ、新たな気持ちで
   働くことができるようになった(オフの日のインプットで仕事へのアイデアも豊富に)
(4)固定チームナーシングやユニット管理など、現場での工夫が効率的な人員配置が行なえた。
(5)表彰、講演会等の地域での活動や報道、ホームページ等により当院のWLB支援策を知り
   応募してくる人が増加。人材確保に繋がった
(6)採用の厳しい状況下でも看護師を採用することができるようになり、中小病院では難しいと
   言われる7:1看護を取得。医療の質の向上から顧客満足も向上した

WLB推進後の課題とその工夫

 このように積極的にワーク・ライフ・バランスを推進した結果、短時間勤務者が看護部の15%となり、短時間勤務者退勤後(業務の集中する時間)のマンパワー不足や、夜勤者の減少というWLBを推進してきた為の新たな問題が発生し、それらの問題を解決する為に、様々な工夫を行ってきた。

(1)固定チームナーシング
   複数の患者さんを1人で担当する方法から複数の患者さんをチームで担当する方法へ変更。
   変更前に比べ引継ぎにかかる時間や労力が減少し、急な欠員にも対応がしやすくなった。
   看護の質を保ちながらスムーズにカバーし合えるようになった。

(2)夜勤専従看護師の登用
   (子育て世代が多いため)夜勤ができるスタッフが少ない、という課題を解決するため、夜勤
   専従の看護師を登用。

(3)業務の標準化
   現場レベルのマニュアルを徹底的に整備することで、一通りの業務は新人・ベテラン問わず
   同じ水準で行なえるようになった。関わることのできるスタッフが増えることで、全体的な
   業務量を減らすことに繋がった。

(4)ユニット管理
   業務内容が比較的近い病棟を1つのユニットとして運営。マンパワーが不足した際は同じ
   ユニットの部署間で応援しあえる体制を作った。
   各部署に共通する業務を中心に、応援要員が担当する業務をあらかじめリストアップして
   おくことで、すぐに業務に入れるように工夫。ユニット内での人的資源の有効活用が出来る
   ようになった。

今後の課題

 WLBの推進は働く側にとってのメリットだけではなく、企業にとってもメリットがある。仕事と生活、趣味などのメリハリをつけ、人材育成を進めることで医療の生産性が向上し、同時に業務効率も高まる。また、人材の確保定着にも有効である。今まで当院でもWLBを推進してきてそれなりの成果が出た。しかし、推進したからこそ、また発生してきた課題もあり、現在解決の方向に向かっている。
 今一番の問題はWLBに対する職員意識の温度差であろう。未だに世間でも、又、当院の中にも、WLBとは“仕事よりも余暇を優先する”という間違った考え方をする人がいる。
 WLBとは「社員が働きながらでも仕事以外の責任や要望を果たせる環境を提供することにより能力を最大限発揮し、会社に貢献してもらうこと」と言われている。最近の風潮として、WLBは働く者の権利であるという考えは、とても納得できない事である。短時間勤務者は、早く帰る権利があるのではなく、「ゴメン、今日は都合がつかないから早く返してもらいます。ありがとう」という気持ちを持って欲しい。夜勤ができない人は「ゴメン、私夜勤ができないけど、夫にたのんで月1回だけはしますよ」と周りに配慮してほしい。
 当院でも、真の意味のWLBが少しずつ浸透してくるにつれて、ゆずり合いの精神が生まれてきた。部署、皆で話し合ってもらうのが一番である。ある部署で部署長が「短時間勤務が増えてきた。全員の全ての希望を満たせない。どうしましょう」と問題を投げかけると「私、夫に一回お迎えを頼んで一日減らします」「私も母に頼んでみます」「1回だけなら夜勤します」と次々と自らの申し出が出てきたそうである。
 短時間勤務者が増える中、一部の部署では『みんな幸せプロジェクト』の取り組みを始めている。今後も制度として発展させるためにも、短時間取得者も『みんなのために自分は何ができるのか』『家族の力を借りてできることはないか』『お互いに力を合わせれば乗り切れる』をスローガンとして職員同士が考え、実践する仕組みである。短時間勤務者だけではなく、チームメンバー全員が定時に帰れるチームを作ることが大切である。そうすれば、時間内に業務を終えるにはどうしたら良いのかという仕事の進め方に転換できる。自律心を持ち、生き生きと働く職員はまさに組織の原動力である。私はこの報告を聞いて大変うれしかった。

まとめ

 WLB施策はメリットも多く避けて通るわけにはいかない。しかし、制度は権利ではなく、あくまでも障害を取り除き、能力を発揮しやすい環境を整えることである。それによって仕事のパフォーマンスを上げてもらうための制度である。また、家族の協力も不可欠であり、職員のみならず職員の家族の啓発も有用であろう。具体的には「男性よ、もっと家事や育児をしよう。」と言わざるを得ない。WLB施策導入は今述べた考え方を広めながら進めていく必要があるだろう。ここ10年間苦労も多かったが、成果が上がってきた。そして、表彰という形で認められ、私としては進めてきて良かったと心から思っている。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成25年10月号に掲載)

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ワークライフバランスからダイバーシティへ

 当院はワークライフバランス(以下WLB)に力をいれて、北九州市から2回、福岡県から2回表彰を受けました。よく経営にはマイナスではないかと聞かれますが、当院としては経営に大いにプラスになるとの思いで取り組んでいます。
 まず、この制度があるので辞めなくて済んだ人が多数います。又、当院のホームページを見て応募してきた人も多数います。人材は人財です。皆さん看護師やスタッフの教育にはどれだけのエネルギーを割かれていますか。最近の医療安全の流れからいうと質を保つ為に教育していくことは、本当に苦労が多いと思います。7:1看護の創設以来、私達のような中規模病院での看護師の採用が大変難しくなっています。この制度がないともっと苦労していることは間違いないでしょう。

子育て支援からWLBへ

 当院は子育て支援に平成16年から力を入れてきました。大企業ではないので保育所を自前で持つことは経済的に困難です。それで制度を作り、少しでも子育てにメリットがある様にしました。短時間勤務がそれです。その後、子育て支援と関係のない世代からの要望もあり、1週間の連続休暇取得奨励制度も誕生しました。休暇中、旅行に行ったり、家で家族とゆっくりしたりする喜びを見つけ出す様になり、気づいてみたらWLBの充実ということになっていました。「これはWLBを制度化するぞ。さあ、やるぞ」と必死で目指したのではなく、子育て支援の道をずっと歩いていて気づいたらWLBの充実に辿り着いていた、あくまで子育て支援の延長線上にWLBがあったのです。

WLBからダイバーシティへ

 WLBの充実で新聞やTVに何回も出て、これからやることがなくなって来たなと思っていると「ダイバーシティ」という言葉に最近何度も出くわすようになりました。最初は何のことか見当もつきませんでしたが、少しずつ意味が理解できるようになりました。ダイバーシティ(Diversity)は「多様性」と訳されていますが、実は「Diversity&Inclution」を省略したもので本来は「多様性の受容」を意味しています。この受容が大切なのです。「違い」を受け入れ、認め、活かしていくことが重要なのです。例えば「男は仕事、女は家庭」あるいは「短時間しか働かない人は社会に貢献していない」等の古い発想にとらわれることなく、女性や高齢者、子育て中の人の雇用活用に積極的に取り組むこと、つまり異質多様性を受け入れ、認めることに始まるのです。「かくあるべし」と画一的なものを強要するのではなく、各自の個性を活かした能力を発揮できる風土を醸成していくことが重要であると思います。最初にやった子育て支援はまさにダイバーシティの考え方であったことに、今やっと気づきました。WLBの充実に取り組んで日々努力していると、またその延長線上にダイバーシティがあったのです。

アメリカでの体験

 なぜダイバーシティが私の中にすんなりと入っていくかと言えば、それは間違いなくアメリカでの体験が影響を及ぼしています。1985年から2年間ニューヨーク州立大学バッファロー校へ研究のため留学していました。その頃アメリカのある市長に女性が当選したのですが、彼女が言うには「私は女性ということで報道も多く、得をしたかも知れないが、女性だから選ばれたのではなく、能力を判断されたのだと思う。」という言葉を聞いて、なる程と思いました。アメリカで強く思ったのは、何事も外見や属性で判断されないことです。女性・男性も関係なく、目の色・髪の色・皮膚の色も関係ないのです。人を採用したり、あるいは友人を作るのにこの様なことは関係ない、相手の多様性を無条件に認めることを学びました。

多様性を活かす道は?

 人材の多様性に関しては、しばし2つの類型に分けて議論されている様です。人々の生まれ持った1次的属性(性別、年令、人種、民族など)と社会的に獲得された2次的属性(宗教、価値観、行動特性、学歴、未既婚、家族構成、趣味、ライフスタイルなど)に区別されます。こうした多様な属性を持った人材が活躍出来るような組織を構築し、運営するのが今後必要です。
 性別に関して、医療業界はどこもですが、女性を多く採用しています。年令に関してはどうでしょうか。能力が有れば年令に関係はなく登用されるべきでしょう。今後は1日ほんの少しの時間しか働けない人、あるいは週1回しか働けない人の働き場所を提供する、急性期医療や慢性期の医療のどちらに興味があるかを考慮した配置、クラブ活動に手腕を発揮できる人にはそちらをまかせる、などが考えられます。とにかく、人それぞれ長所や事情があり、多様性なのです。それを活かせるシステムを作っていけば、企業は必ず発展すると今考え始めたところです。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成22年5月号に掲載)

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亜急性期という選択

 当院は今年95周年を迎えましたが、昨年の秋は今までにない大きな病棟改変を行ないました。今年の当院の年間目標は「病院機能分化への対応」でした。今までも、本当の意味での大きな急性期病院と、当院のような中規模の病院ではやることは違っていました。しかし4月の診療報酬改定で、さらにその境界が明確になってきている様に思います。そして厚生労働省は、「大きな病院は急患をとり手術をどんどんやり、早く他の病院へ移しましょう。病院に長く居ることなく在宅へ帰すように。」というメッセージを発しています。巨大な医療力を持った病院と地域一般病院はこれから住み分けていかねばならない様になりました。今回の亜急性期病棟がそれにあたるのだと思い、私の病院は選択しました。
 当院はこれまで何度も制度の変更に伴って病棟の再編を行なってきました。今回そもそも病棟再編を行なった理由は、障害者施設等病棟の算定対象から脳卒中後遺症が除外されたからです。多くのシュミレーションを行った結果、「亜急性期入院医療管理料2」病棟に転換という方向に決めました。この病床は治療開始から3週間以内に急性期病床から転院(床)してきた患者さんが3分の2以上を占めなければなりません。ですから当院へ患者さんを送ってくれる急性期病院を多く持たなければなりません。その為には多くの病院に当院を知ってもらうことが必要で、急性期病院へ足を運んでいます。もう一つの問題は、政府の「在宅・在宅」号令とは裏腹にどうしても帰れない人が出てくる事です。当院は介護施設を持っていません。それで今、病院の前に老人ホームを建設中です。病院の前の住宅は、急性病変時等色々なメリットがあり、これから増えると思います。
 当院の亜急性期から在宅までの取り組みは、大変めずらしい様で、日経ヘルスケアから取材を受け、2008年12月号に亜急性期入管2の特集で「全国の算定動向と先行事例に見る有効活用のヒント」として掲載されました。同誌によると「そもそも厚生労働省が今回、亜急性期2を新設したのは、急性期と亜急性期の機能分化の促進を狙ってのこと。地域密着型の中小病院にこそ高度な急性期医療の後方支援を担ってもらいたいという意図からだ。」とのことで、当院の方向はそれに沿ったものだと実感しています。また、大日本住友製薬の“MEDICAL PARTNERING”2008年10月号P1~P5にも当院の事例が掲載されています。
 4月の改定で大変な苦労をして病棟再編を行いましたが、長期の患者さんに移ってもらった影響で入院数が減って、現在メリットなど有りません。しかし療養型を選択するともっと減収です。何だか負の選択の様で納得できないのですが、嘆いていても制度は変わりません。地域のニーズに答えているという自負だけが心の拠り所です。

(福岡県私設病院協会 機関誌 “福私病ニュース”2009年1月号 掲載)

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次世代育成支援行動計画で認定を受けて

職員300人以下の企業で福岡県初の認定

 皆さん、「次世代育成支援行動計画」をご存知でしょうか。これは、次世代育成対策推進法(次代の社会を担う子供が健やかに生まれ、かつ育成される社会の形成に資することを目的に定められた法律)に基づいて、雇用者が仕事と子育てを両立させ、また少子化の流れを変えるために事業主が策定した計画書のことです。 その目標をクリアーし、昨年12月20日に県より「基準適合一般事業主認定」を受けました。今回の認定は福岡県で7番目、北九州市では初の認定で、しかも職員数300人以下の努力義務企業では県内初の認定となりました。この様に当院は、福岡県の一般企業の中でも進んでいる方だと自負しています。当院の今までの取り組みをお話します。

子育て支援制度導入の経緯

 病院職員の8割は女性で、特に看護師に女性が多いのはどの医療機関でも同様でしょう。その女性職員が、入職後,3~4年で結婚・出産・育児で退職することになれば、せっかく育てた優秀な職員が流出し、また一から教育を繰り返さなければならないことになります。 経営会議で,退職しない環境・支援をどうするか議論していましたが、職員自らも「結婚・出産・育児に直面した時にどうしたら退職しなくてもよいだろうか」と考え始めたことが子育て支援への取組みのきっかけとなりました。院内にいくつものクラブ活動が発足すると同時に,職員による「職場環境改善提案会議」が生まれました。その「職場環境改善提案会議」の中で、福岡県が推奨する「子育て応援宣言」へ当院が手をあげてはどうかという提案が出され、平成16年3月、県内18番目に登録しました。昨年12月28日時点で1,275社が宣言しています。当院のような中小企業ができることとして、ハード面ではなく、ソフト面での支援を中心に考えていこうとする気運が生まれました。

育児休業復帰率100%、男性育休1名取得

 平成17年4月に次世代育成支援法が制定されましたので、その法律を活用し,「次世代育成支援行動計画」を策定して、平成20年3月までの3年間の目標としました。この「次世代育成支援行動計画」策定に関しても、「職場環境改善提案会議」メンバーが大きな力を発揮しました。その1番目の内容は、「育児休業取得率の向上」で、女性の育児休業取得率70%以上、男性は1人以上育児休業を取得することを目標とし、昨年11月までで,女性の育児休業復帰率は100%,11月に男性1名が育児休業を取得しました。平成16年に「子育て応援宣言」を行ってから約4年が経過しますが,宣言後に育児休業を取得した職員は,延べ21人を数えるほどになりました。宣言前の4年間で7人でしたので,宣言を境にして,3倍という予想以上の数字となっています。時間の経過とともに,産休・育休を取るのが当たり前という病院の風土が自然にでき上がり,2度目の産休・育休を取得する職員も出てきました。

常勤短時間勤務制度、ノー残業デー

 次に「常勤短時間勤務制度」を平成18年8月に導入しました。その内容は,出勤・退勤30分単位で計1時間の短縮勤務ができる制度で,小学校就学2年生前までの子供のいる人が取得可能となっています。さらに,子供の長期休暇,例えば,夏休みだけの取得も可能とし,職員の家庭環境に応じてフレキシブルに対応しています。現在9人の短時間勤務取得者がいますが,今までの総計では24人となっています。また現在,産休・育休取得者が数人,さらに今後,結婚や出産を控えた職員もいますので,この制度を利用する職員が入れ替わり,制度利用総数が増えていくことになります。 また,「ノー残業デー」を当初,月中1日に設定していましたが,月中3日のいずれか,主に第3水・木・金曜日を選択できるように平成17年12月に変更しました。

1週間の連続休暇取得奨励

 さらに,「次世代育成支援行動計画」とは別に,「連続休暇取得奨励規定」制度を平成18年4月に導入しました。当院では20歳代・30歳代の職員が65%を占め,ますます子育て職員が増える傾向にあります。しかし,今まで行ってきた子育て支援制度は,小学2年生未満の子供を持つ子育て対象職員だけに限定されます。 そこで,1年に1回,7日間の連続休暇を全職員対象(勤続年数 既卒者1年以上、新卒者2年以上が必要)に,理由を問わず取得してもらう制度を作成することにしました。1週間家族で過ごしながら、その間に少しでも父親に育児を手伝ってもらったり、あるいは休息して心身のリフレッシュをしてもらいます。そしてまた新たな気持ちで勤務してもらえれば,職員の定着率の向上にも寄与すると考えたからです。もちろん、同じ部署の複数の職員が同時に取得することになると、業務に支障が出てしまうので部署内で調整することが大前提です。 同規定を施行してから2年半が経過しますが、今までに申請された人数は75人、件数は91件で対象者の55%に相当します。その内訳は,看護師32人,准看護師7人、看護助手13人,理学療法士6人,作業療法士3人他で,看護師に取得者が多いことから,この制度を理解し,順調に推移しているとみるべきでしょう。件数が人数より多いのは、2回目を取得しているからです。

子育て支援制度がもたらす効果

 今まで書きました様に、子育て支援制度は職員の定着率の向上という実質的なプラス面もありますが、さらに人と時間の有効活用の習慣がつくという効果もありました。よく「人が足りない」という言葉を聞きますが、そうではなく「仕事に対して優先順位をつけてさばいていく」というのが本来の姿です。「人が足りない」と口にする前に「どうやったらこの人数で何とかやっていけるか」を考える癖がつきます。1週間の連続休暇なんてとんでもない、という声もありましたが、何とか工夫を凝らせばやっていけるものです。課長(科長)クラスもどんどん取得しています。また、仕事の責任者が不在だと次のポジションの人は何とかしなければならず、その人のトレーニングにもなります。 以前子育てに関する県の座談会に出たのですが、ある会社は外資系に変わった途端「サービス残業禁止、破った人は罰する」と言われ、「随分戸惑ったものの、企業風土が完全に変わり時間内にやりくりするようになった。やれば何とか出来るものです。」と言っておられたのが印象的でした。

なぜ熱心に子育て支援をするのか

 よくこういう質問をされます。それは20年前私が米国へ留学していたことが大きいと思います。ニューヨーク州立大学バッファロー校の生理学へVisiting Assistant Professor として1985年赴任し、2年間を過ごしました。私のボスの教授は(生理学に教授が16人いましたが、その1人)毎日午後4時に大学を出ていました。不審に思って私はある日、聞いてみました。「Jack(アメリカでは教授さえもニックネームで呼びます。)、なぜ4時に帰るのですか。」「Hajime、それは子供を保育所に迎えに行くからだよ。」「え、そうなんですか。」びっくりしました。今でもこういうお父さんは皆さんのまわりにはいらっしゃらないでしょう。それが20年前です。しかも奥さんは同じ大学で5時まで働いていたんです。私も実はこのおかげで4時半に大学を出られる恩恵を被っていたのですが。 もちろん他の研究者や職員も5時には大学を出ます。残っているのは大学院の学生だけです。彼らには1年でも早く研究を仕上げて卒業したいという自分の為の明確な目的があるからです。アメリカでは基本的には5時過ぎて仕事をしていると「あの人は段取りの能力が低いので予定通り終わらないのだ。」とマイナス評価です。仕事を終えた私は家でゆっくりくつろいだり、近くの公園にバーベキューに出かけたりしていました。夏時間で8時半まで明るいので、夕方5時からゴルフに行ったこともあります。その頃、日本の個人の所得が世界一という統計が出ましたが、全く実感は有りません。「そんな事はない、アメリカの暮らしの方が豊かだ」と思っていました。この頃ワークライフバランスという言葉があったかどうか知りませんが、そのバランスがとれていたのです。 もう一つの理由は母が女医で働いていた事です。母は産婦人科医でしたので、お産があると遊園地に連れて行ってもらう予定が急にキャンセルになっていました。小さい頃は恨んでいましたが、物心がつくようになってからは、逆に仕事を持った母親を誇りに思うようになりました。一度大学生の時、仲の良かった友人から「女医さんはいらん。子育てで働かれない時期があるから。」と言われた時は、猛反発をして大喧嘩をしたことを今でも覚えています。 この二つの出来事が今の私を作っているのだと思います。

企業にとって子育て支援はプラス

 知人に子育て支援を勧めると、よく返ってくる言葉が「お金がかかって企業にとって損失ではないか。」という言葉です。それは誤解です。一生懸命に教育した従業員が辞めたら企業はいくら損をするのでしょうか。上司が教育に割いた時間や研修に割いた時間を計算すると莫大な損失となっているでしょう。又、逆にとてもよく教育された人材にその会社へ来てもらえればどれだけ費用を節約出来るのでしょう。私は別にお金の計算で子育て支援をしているわけではありませんが、お金の事しか頭にない人にはこのような話をします。 当院の例を示しましょう。当院の短時間勤務制度を見て、子育てと両立できると就職した人が何人もいます。又、当院の女性職員が遠距離恋愛の末、結婚を決意しましたが、ご主人の地方には安心して子育てが出来る環境がないということで、ご主人が転職して奥さんのもとへ引越ししてきたという例もあります。この様に実質的なプラスは必ずあります。

ボトムアップとトップダウンそしてスピード

 当院の子育て支援制度は、わずか1年で次々に施行していきましたが、それは中小企業のメリットを生かせたのだと思います。まず、従業員で作った職場環境改善提案会議が、「どういう支援策をして欲しいか」アンケートをとりました。すると、1番多かったのは短時間勤務です。すぐに私が決断し、総務部で規則を作って説明会を開き、実行しました。皆の希望を入れて、短時間勤務を毎日とっても良いし、夏休みだけあるいは月何回など様々な希望を取り入れました。連続休暇制度も年1回行なっている職員の満足度調査で、連続した休みが取れないというのが一番の不満というのが分かったので作りました。これは子育て職員に関わらず、全ての職員に関係します。これもすぐに決断し、規則を作り実行しました。 この様に、すばやく実行できるのは、中小企業ならではのメリットではないでしょうか。そしてボトムアップだと自分達で決めた事だと受け入れやすいものです。決して総務部が、ある日突然規則を皆に知らせても、うまくいったかどうか分かりません。資金面で例えば保育施設を作るのは難しいのでこういうソフト面で対応してきました。

雰囲気作りが最重要

 今言った様に、規則はすぐに出来ても、上司に理解があり、支援をして当たり前という雰囲気がないとうまくいきません。幸いそういう雰囲気がすぐに育ち、子育て応援宣言後、皆がどんどん制度を利用するようになりました。それはやはり当院に父の代から存在する企業風土があったからだと思います。当院のクリスマス会はホテルの立食スタイルですが、子供も参加OKで、昨年は大人134名、子供42名と子供で溢れていました。そして私がサンタになり、子供達にプレゼントを配ります。夜、出かけることが難しい女性職員にとって、子供と一緒になら参加できると大変好評で、これも子育て支援のひとつかと思っています。しかしこれはもう昭和30年代からあり、私も子供の頃従業員の子供とパーティーで遊んだ記憶があります。私はずっと当たり前の様に思っていましたが、講演会等で話すと驚かれます。ともかく育児支援して当たり前という雰囲気が重要です。

育休中のケアも大切

 以前当院の職員がセミナーに行った時に、育休中に何の連絡もなく、復帰前日に「職場が変わりました」と連絡があって、とても憤慨したという話を聞いてきました。当院ではそんな事のない様に工夫しています。育休中手続きは郵送でも出来るのですが、あえて2ヶ月に1度子供を連れて来院してもらい、育休中あるいは復帰時の悩みがないか等相談を受けています。そしてその時、職場を訪問してもらっています。同僚、上司達が寄ってきて「かわいいね。」「大きくなったね。」と皆から声を掛けられます。育休中は自分が忘れられていないか心配ですが、その心配等どこかへ飛んでいき、又、戻ってきて働くんだと力が湧いてくるらしいのです。また、院内報を送付したり、手紙に手書きのメッセージを入れるなど工夫をして、ともかくまた一緒に働こうというメッセージを送り続けます。その事が育休復帰率100%につながっていると思います。

男女協働実践企業表彰5周年記念受賞者リレートークにて発表

 平成19年2月24日に北九州市のムーブで行なわれ、私も当院の取り組みを発表しました。冒頭の講演はパク・ジョアン・スックチャ氏でしたが、その時私は初めて「ワークライフバランス」という言葉を耳にしました。自分の生活と仕事をバランスをとらないといけないとのことです。その為には家庭内の男女平等が必要とのことで、なるほどだと思いました。

男女共同参画セミナーにパネリストとして参加

 平成19年9月22日、福岡県社会教育センターにてセミナーがあり、パネリストとして参加しました。まず、山田正人氏の「男の育児休暇について」という講演がありました。山田氏は「経産省の山田課長補佐 ただいま育休中」の著者で、1年間男性育休を取られた方です。少し内容に触れてみます。育休を決断した際の周囲の反応は、興味深いものでした。妻の両親は怪訝な顔、実の両親は「育児休暇、いいねぇ。お前もずっと働いたのだから少し休んでいいよ。良かったね。」と言ったそうです。ところが正反対で「育児休業」とはそんなに楽なものではなく、「育児労働」だったとのことでした。又、家に帰らない日本の父親というのも印象的でした。午後7時までに夫が帰宅する割合はストックホルム8割、ハンブルグで6割、パリで5割、東京で2割。夕食を何回家族全員で取るのかに対して週7日と答えた人の割合は、パリで46%、ハンブルグで38%、ストックホルムで32%、東京では17%との事でした。山田氏は究極的には家庭内での男女平等が大切と強調され、前述のリレートークの時の講演会と同じ結論でした。

Equal Opportunity

 家庭内平等で思い出した言葉があります。アメリカでよく“equal opportunity”という言葉を聞きました。人間は、皮膚の色・目の色・国籍等で区別してはいけない、皆に平等の機会があり、能力によってのみ判断されるということです。アメリカの大都市で女性として初めて市長になった人が、「私は女性だから注目された事はあったが、女性だから市長になった訳ではない。能力で判断されたと思う。」と言っていたのが印象的でした。職場で男だからとか女だからとか言うのは良くない事だと思います。幸い当院は女性が多いので普通の企業とは少し事情が違うかもしれません。男女の区別なく皆が出せる力を遺憾なく発揮すれば、男性にとっても女性にとっても楽なのではないでしょうか。子育て支援をして、全ての人が子育てというハンディを負わず、力を目いっぱい発揮できる社会が理想で、その為に企業で出来ることをやるというのが、企業の社会責任だと思っています。

啓蒙活動

 2つの講演会以外もTV・ラジオ出演や新聞報道等の育児支援の啓蒙にも力を注ぎました。TVは録画とはいえ、長い文章を喋るのには緊張しました。ラジオはFM KitaQで生放送でしたのでもっと緊張しました。当院職員と2人で30分間、今日書いた様な事を全て喋ってきました。また一番嬉しかったのは、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)の「企業における子育て支援とその導入効果に関する調査研究」報告書に、成功例全国10社のうちの1つとして掲載されたことです。当院の取り組みが詳細に報告されました。その他表彰は、「平成17年度わたしの職場のボス自慢!取り組み自慢!」の取り組み賞受賞、「第1回北九州市子育てしやすい環境づくりを進める企業・団体表彰」の市長賞受賞の2つで、努力が認められて嬉しく思っています。  この様に頻繁に報道されると、報道が報道を呼ぶということが分かりました。子育て支援の分野では随分当院の名前が浸透してきました。

まとめ

 以上当院の取り組みをお話してきました。今感じるのは、熱心に取り組んだおかげで色々な講演に呼んでいただき、普段会えない人にもお会いしてお話を聞くことが出来、自分にとってプラスになったということです。 こうやって取り組んでみて思うことは、繰り返しになりますが子育て支援は企業にとってプラスということです。従業員のアイデアを実現し、従業員が幸せになる事は経営者としてもとても嬉しいことです。当院は従業員満足度調査をして、厳しい意見もありますがその結果を張り出しております。そして出来ることはやる様努めています。それにより少しでも従業員がやる気を起こしてくれ、患者さんや家族に優しく接し、病院の評判が上がれば、こんなに嬉しいことはありません。子育て支援にかかわらず、従業員満足度を上げる施策、皆様どうかご検討下さい。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成20年2月号に掲載)

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社会参加に移送不可欠

介護タクシーをめぐる議論が活発のようです。介護保険で訪問介護として取り扱われていますが、移送サービスと位置づけて、全体的なシステムを構築することが大切だと思います。

タクシーだけでなく、ドアからドアまで運行するミニバスや、車いす対応の駅など公共交通網の整備、身障者向けの自動車学校の設置など幅広く検討すべきです。それが社会的コストの抑制にもつながります。デイサービスなどでは、車が地域の高齢者宅を巡回して数人を一度に施設(目的地)まで連れていっている。これを参考にした移送システムも考えられます。

先日、米国の病院を視察した。大小さまざまなバスや車が移送で活躍していました。移送の問題解決なしには、体が不自由な人たちの社会参加・復帰の実現は難しい。国民全体検討すべき課題だと思います。

(西日本新聞 平成13年6月2日 「暮らしと社会保障 あしたへ」に掲載)

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介護ビジネス?

介護ビジネスという言葉が一般の人の間で、口々に言われ始めて久しいですが、私は以前よりこの言葉に反発を感じていました。「ビジネスで介護はできない。人と人とのつながりですよ。」と言ってきました。ビジネス畑の人は、この言葉を嘲笑するかも知れません。「企業ですから利益追求ですよ、何甘いこと言ってるんです。」それも一つの真理でしょう。マスコミは、医療は「医は仁術」「赤ひげ先生でなければ」と言いながら、介護はビジネスと言っているのは大変な矛盾だと私は感じています。競争がおきれば選択の巾が広がり消費者に有利だと...本当でしょうか。80才近いおじいさん、おばあさんの世帯が、若者がコンピューターを選ぶ時カタログを熱心に見比べるのと同じように、介護業者を比較しながら選べるでしょうか。ケアプランを作る時でさえ、「あなたにまかせます。」とケアマネージャーに言う人が多くいらっしゃるのが事実です。自分で自分の道を選ぶ訓練のできてない世代は選択の自由があっても、仲々使えないものです。その善悪の区別さえつかないのが実態でしょう。それを考えると、悪い業者は、駆逐されるべきでしょう。アメリカでは大手石油会社の在宅会社がつぶれたと聞きます。当院では介護保険の開始は「大きなビジネスチャンス」という視点ではなく、「当院にとって必然性のあるサービスを必要としている人に順次提供していく」という考え方でやってきましたが、それはまちがいではなかったと今でも思っています。

そもそも介護は人と人と1対1で向き合う仕事です。ごまかそうとしても絶対ごまかせません。評価は、受ける人がどう感じたかの一点につきます。その人がどこから派遣されてきたかでなく、その人がどういう人かとういことのみが、意味を持ってきます。介護は人の家に上がりこんでいくので本当に信頼できる人でないと恐ろしくて派遣できません。当院でも細心の注意を払いながら人選をしています。

ビジネスということばもここ3ヶ月で声が小さくなってきました。「利用者が本当に必要とするサービスの提供」私はこのやり方を貫こうと思っています。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成12年7月号に掲載)

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21世紀。医療はアメリカの後を追うのか?

昨年11月に10日間のアメリカの医療福祉事情の視察に行ってきました。とても有意義であったと思いますので御報告いたします。

まず平均在院日数の短さが目立ちました。普通の平均入院日数は肺炎2~5日、 虫垂炎2日、 大腸癌術後3~4日、心筋梗塞バイパス術後4~6日、と驚くべきものでした。乳癌は1日で退院。傷のつけかえの仕方を教えられ自分でするとのことでした。入院期間は日本は長すぎると思いますが、アメリカは短すぎではないでしょうか。これは結局の所、「お金」の問題とのことでした。病院に居たいけれどお金がなくて居れない。あるいは、病院側からすると長く置くと、保険上損をするので、早く出す。ということが有る様です。病院を数日で出るとどこへ行くかということ、ケアセンターか在宅です。まず最初に見学したケアセンターは驚きでした。そこは、4000ドル/月もかかります。しかしドクターは1人もいなく何か有れば救急車を呼ぶ?とのこと。ここには180人もの人が、日本でいえば「入院」して暮らしているのに、何か起これば救急車とはびっくりさせられました。

在宅に関しても、やはりお金の関係で訪問が減らされる一方の様でした。カリフォルニアの場合年間80~90回から38回へと減らされました。ただし、「在宅」という言葉を聞くと、どうしても、私達は、「老人医療」を考えますがアメリカではむしろ本当は入院で行ないたいがお金が高いから在宅でしている、つまり、急性期医療の1週間目位以後を在宅医療が肩がわりしている様でした。日本の様に介護だけの訪問は、お金はおりず自分で払う外はないそうです。在宅医療も15年前にビジネスとして一般的にスタートし、多くの業者が、参入したものの20%数が減ったそうです。そこで事業が永続する秘訣を聞いてみましたら、 ①質の向上維持と②先を読むの二点でした。この2点は大変に参考になりました。①は説明の必要はないでしょう②は例えばお金の関係で訪問日数が減らされる情報をいち早く入手し、徐々に減らしたとのこと。この2つは普遍的なことで他にも応用できるものと思いました。

リハビリテーション専門病院も訪問してきました。この病院は全米でもトップ10、西海岸で2位にランクをされているというロスアンジェルスの200床の病院です。リハビリテーションは1人1日3時間とは恐れ入りました。このことは本当に尊敬してしまいます。やりたくても、とてもいつまでたってもまねできない事の様に思えました。他の6つの大きな病院からこのリハビリ専門病院に21日後に来るとのことでしたが、その理由というのは、これも保険がらみで、要するに「脳血管障害」なら 21日間入院が認められるからとのことでした。その後病名が「脳血管障害回復期」に変わり、リハ専門病院には29日間いるとの事でした。急性期リハビリの定義も「3時間リハを必要とする状態のリハ」との事でした。日本とは違いました。どうして、この病院はランクが上なのかとの質問には、究極は壊れた脳細胞の変わりに、電気刺激か何かで麻痺した所を動かすアンドロイドみたいなものまで考えているのには驚きました。質問に答えたのが経営者でなく医師であったのでそういう答だったのでしょう。もっと経営的な事も知りたかった気がします。

最後に一般市民代表としてデパートでレジを打っていた米国人の意見をきいてみました「アメリカの医療は高すぎる。友達はお金が払えず病院を出た。まだいてもいいですよ、ただ、これだけかかりますよと言われれば出ざるを得ない。」とのことでした。アメリカ人の1つの意見としては貴重だと思います。

長くして短かかった10日間の旅、本当に有意義でした。以下をまとめとしたいと思います。

①在宅医療とは日本の老人の話とは違い急性期医療の病院での治療を家ですることである。理由はお金の様だ。
②在宅医療会社の規模は大きい。
③在宅医療会社も淘汰されている。生き残りには、質の向上と先を読む力(情報力)が重要である。
④医療とは関係ない「介護だけ」にはお金は出ない。やりたかったら自分のお金で。
⑤リハビリの1人1日3時間は感動的であった。
⑥アメリカでは保険会社が、医療費の支出を押さえる役割を果たしている。
⑦お金があれば豊かな老後。

視察中最初から最後まで貫かれたテーマは「お金」でした。日本の21世紀には、アメリカの良い面は真似し悪い面は後を追わないでほしいと思っています。

(福岡県私設病院協会ニュース 平成12年1月号に掲載)

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療養型病床群の保険選択にあたって考えた事

介護保険を前にして、多くの病院・医院では如何に対応していくかを日々検討されていることと思います。 当院では急性期の1病棟と、完全型の療養型病床群2病棟を有し、計161床、その他に透析・訪問看護・訪問リハビリテーション・デイケアを行っており、訪問介護も計画中です。

点数に惑わされるのはもう止めよう

この中でも療養型病床群やデイケアについては、昨年から様々なシュミレーションを実施すると共に、「医療」と「福祉」についての取組と、介護保険に対する考え方を整理してきました。仮単価が出るまで、まだ出ない、まだ出ないと、はっきり言ってやきもきしておりました。点数を入力してシュミレーションしなくてはと。 しかし、今は違います。点数にあくせくした所で、それはどうせ変わるもの。基本的には、厚生省つまり国にお金がないということです。お金が足りなくなると解っているからこそ介護保険を導入するわけですし、どちらを選択しても2、3年先ではどちらも「締めつけ?」が厳しくなるのは覚悟して取り組まないといけないと思います。 それよりも、もっと当院の原点に立ち戻って、当院が何をすべきかを考える事がとても重要な事であると思うようになりました。当院の理念は、「急性期から在宅医療までトータルな医療福祉サービスを通じて地域に奉仕いたします。」というものです。この理念を基に、又、若松区に他に療養型がない事を考えれば、答えはおのずと出てきました。

レベルアップが最重要課題

一番重要なのは、常々従業員に言っていることですが「自分達のレベルを少しでも上げていこう。」ということだと思います。具体的には生活リハビリの観点から、看護補助者に対し、ホームヘルプ2級あるいは介護福祉士の取得を奨励し医師やPTによる研修により全体のレベルを上げることを実行しています。この過程において2つの療養型病棟に対して回復期あるいは維持期の区別が徐々についてきました。

ビジネスという言葉に疑問

介護保険創設の中で、当院が重要視しているのは、今よくいわれている介護保険の開始は『大きなビジネスチャンス』だと言う視点ではなく、『当院にとって、必然性のあるサービスを、必要としている人に順次提供をしていく。』という考え方です。
一般企業の基本理念とする「利益追求」を第一に考えると、今まで行われてきた事とのギャップが非常に大きくなると予想されます。マスコミは医療の事を語る時に、「医は仁術」、「赤ひげ先生でなければ」ということを常々求めてきます。しかし今回、介護に関してはあっさりと「介護ビジネス」という言葉を平気で使っています。ビジネスで介護ができるでしょうか?畑違いの人が儲かりそうということで、介護ができるでしょうか?利益追求が、患者さんの不利益に繋がる事だとしたら大きな問題になると言えます。

介護難民...解決の糸口つかめず

もう一つ問題となるのが、介護度が軽いがどこにも行くあてのない人、いわゆる『介護難民』の件です。しかし、介護難民の問題は一医療機関では解決の方策がなかなか見当たりません。それはその方々が、家もなくお金もなくあるいは家族がいても様々な理由により引き受けることを拒絶されているからです。
最近よく耳にするようになった「ケアハウス」「介護付老人マンション」等に入れる経済力を持った方も中にはいらっしゃいますが、それに該当しない方も一方ではこれから多く発生してくることを十分考えておく必要があるといえます。この解決にはやはり公的な大きな力が必要ではないでしょうか。家庭で生活できる方には、その環境に近い方が多くの人にとって幸せだと考えるのは当然です。療養型を有する医療機関としても、今までもそうですが、これからもさらに「いかに早く在宅への復帰をサポート出来るか」「人間の尊厳をいかに尊重できるか」が問われる時代に入ってきたと考えています。

まとめ

当院が今行っている事は、当院の理念に立ち戻って質を上げる事であって、決して点数の計算をあくせくするというのではありません。しかし、いわゆる介護難民に関してはお手上げ状態です。
先日、ドイツの介護保険のシンポジウムでおいでになったDr.Pick氏にこの事を尋ねた所「そりゃ私たちの範疇ではない。社会保障の問題でしょう。」とあっさり言われてしまいました。何か公的な解決はありませんでしょうか。 常々院内で言っていることは、「介護保険の制度にふりまわされるのはやめよう。ともかく自分達の質を上げよう。少しでも患者さんに喜んでもらえるようにしよう。そうすれば、結果は必ず後からついてくる。」ということですが、これにつきると私は思っています。そして、患者さんが一日でも早く自宅へ帰ることができるようにサポートしていくことが、私達の任務だと思います。

(北九州市医報 平成11年11月号に掲載)

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医業経営アンケートの集計結果をみて

昨年度の健康保険法等の改正をうけてのこのアンケートの結果を、興味をもって読ませて頂きました。今回、市医師会からの依頼によりこのアンケート結果について福祉委員の一人として感想・意見を寄稿させていただきます。

広く知らせたい驚くべき結果

まず思ったのは、改正による収入減が70%もの医療機関に影響を及ぼしている事実です。しかし果たしてこの事実を一般の人が、知っているでしょうか。恐らく一般の方は「お医者さんは不況に関係なく儲かっていいよね。」と今だに思っているのではないでしょうか。その考えを改めてもらうには、PRが非常に重要です。PRは宣伝ではなく『PublicRelation』即ち民衆との関係、公に広く知らせる事です。しかし、このPRは、従来より私達医師はどうも不得意な分野でありました。以前ある新聞社の方に言われた事が有ります。「お医者さんからの投書なんか見た事ないですよ。不満が有るならデモでもストライキでもして厚生省の前でムシロひいて座り込みしたらどうですか。本当にお医者さんはアピールが下手ですね。」と。皆さんどう思われますか。極端な話かも知れませんが、確かに新聞に医師側の主張が載っているのは見た事ない様な気がします。いつも一方的に報道されているように思えてなりません。このアンケート結果も、集計が終わった時点が始まりだと思います。こうやって市医師報で特集が組まれる事は、大変重要です。さらに、どうやって世論を作って、制度等の納得いかない部分を変えさせていくかを考えなければなりません。例えば、北九州市医師会の名で新聞に投書する、記者会見する。インターネットのホームページにのせて意見を募る。色々な方法を使って、広く大衆に知ってもらうことが、重要な事ではないでしょうか。個人で言ってはグチになりますので、こういった医師会の行動に対して大きな期待をいたしております。

各自の努力もやはり必要

しかしさらに大事な事は、今何が出来るかを考えて行動しなければ、行き着く先は自ずと見えていることです。「制度が悪い。制度が悪いのでつぶれた。」と言ってみても何も残りません。今できる範囲で、何かしら努力をしなければなりません。私は、医療を人に対するサービス業として、捉えています。患者様に選ばれるための環境作りが必要で、それは福祉との連携や、一般企業のようなすきま市場の発見であると思われます。その他、当たり前の事ですが、専門技術の追求や予防への取組みによる底辺の増加、医師の丁寧な説明、あるいは、職員の接遇、建物の充実など、色々考えられると思います。

まとめ

以上の様に、各自の努力、そして医師会の力、この2つがうまくかみ合って初めて、100%は無理としても、私達が求めている医療界に近づくのではないでしょうか。

(北九州市医報 平成11年4月号に掲載)

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最近思っている事

制度開始迄あと1年数ヶ月となった介護保険を前にして、各界の方々が多くの意見を出されていますし、様々な講習会も開かれています。その中には、有意義なものもあるし、そうでないものもある様です。その結果として、これだけ情報が氾濫してしまうと、多くの医療関係者が混乱し戸惑っている様子があちこちで伺えます。

私は、しかし今さわぎたてるのは、そして、オドオドするのは止めようと思っています。なぜなら、まだ形ができていないものに恐怖をいだいても意味がないと思うからです。ただ言える事は、『地域に密着した医療を、良心的な医療を提供し続けていれば良いのだ』ということです。そうすれば、道は自ずと切り開けるだろうと思っています。

以前、ある雑誌を読んでいたら「敗軍の将、兵を語る。」というコーナーで、ある病院の院長のインタビューがのっていました。このコーナーは要するにつぶれた会社の社長が色々と言い分をのべる(言い訳をする)コーナーです。その記事で繰り広げた理論は、法律が悪い、行政が悪い、こんな制度があるから自分みたいに良心的にやっている病院がつぶれるというものです。「私は悪くない制度が悪い。」ということが最初から最後まで続きます。確かに一理あろうかとも思われますが、つぶれてしまっては自分が悪いとしか言い様がないのではないでしょうか。すかさず次週の編集者への手紙のコーナーで、批判が寄せられていました。(何と北陸の私の友人でした。)これから厳しい時代が続くと予想されますが、だからといって、自分が良くて制度が悪い等、言い訳だけはしたくないと思っています。

しかし、私の病院の様な私設の病院は、社会に貢献するにはその前提として、何といっても経営が成り立っていなければなりません。それと密接に関係するものは診療報酬です。このことについていつも医師の間で不満が充満している事は事実です。よく医師会報等の会員の一言というようなコーナーには毎回投書がいくつもあり、内容的にも、賛同出来るのが殆どです。しかし医師会報は会員しか見ず、一般の人は誰も見ません。同じ仲間しか見ないのならそれは「意見」というより「グチ」に近いものがあります。以前新聞社の方から言われた事があります。「看護婦さんからよく投書はあるのですが、お医者さんからの投書は皆無です。もっと外へ向かって言いたい事を発信なさってはどうでしょうか。」と、いう内容でした。皆様、この意見どう思われますでしょうか。医者は儲けすぎと世間はいまだに思っています。「そんなことはないよ。経営に色々と苦労しているんだ」とアピールすべきは当事者以外ないはずです。他人はやってくれません。

この会は、大学で学問を追求するというよりは、本当の現場の臨床に携わる外科医の集まりだと聞いています。臨床に携わる者として、医療の実際、あるいは、医療の機構の問題点など、情報を発信できる機関であればと思っております。

(福岡県臨床外科医学会々誌 平成11年3月号に掲載)

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英国の在宅ホスピスケアの講演に関わって

平成8年10月24日、英国からニッキ・ル・プリヴォストさんをお迎えして、英国の在宅ホスピスについてお話ししていただきました。質問の通訳等一部分関わらせていただきましたので、記録にとどめておきたいと思います。

プリヴォストさんは、1954年生まれ、英国のサウスブロムリーホスピスケアの婦長さんです。教職の免許や、死への学問の免許等とられ看護学で学士号をとられている方です。このホスピスケアは12万人の地域をカバーしているとのことでした。

講演で印象に残ったのは、痛みには身体的、精神的、社会的、経済的等色々あるということで、なるほどと考えさせられました。私は今まで職業柄、身体的な痛みのことしか頭になく、深く反省させられました。又、ホスピスのスタッフは、家族と本人の両方共、ケアすることが必要とのことでした。スライドの中で一番印象的だったのは、ホスピスでお酒を飲んでいるところでした。何とすばらしいことでしょうか。

質問や御意見もたくさん寄せられ、それらの答え等を考え合わせ私なりの感想を述べさせていただきます。

1)
日本では、確かに色々な職種の方が在宅の方を訪れていますが、英国のような強力なコーディネーターがまだ十分ではないのではないでしょうか。頻繁なミーティング等で対応していかなければならないと思いました。
2)
精神的サポートをよりよく行う為に、例えば宗教家の方等チームに加わっていただいてはどうでしょうか。
3)
どうしても癌告知の問題はさけて通れません。イギリスでは、告知は90~95%だそうです。宗教的なことも関係有るかも知れませんが、インフォームドコンセントについてもう一度考え直すべきだろうと思います。
4)
財政面に関して、行政方針の違いも有るでしょうが、それはすぐには変わりません。又、チャリティー(善意の寄付)も日本ではあまり期待できません。英国では70%の予算がチャリティーだそうです。経済的なよりどころを明確にしなくては話が進みにくいだろうと思います。
5)
ナイトシッター、買物同行等、「あったらいいなあ」と思うことは、すべて英国には有る様です。ですから、考えることは同じで、日本はただ遅れているだけだと思いました。先進国と発展途上国の違いですから、いずれ追いつけ追い越せで、方向は間違ってないと確信し10年位遅れているだけだと希望を持てました。
6)
私事で恐縮ですが、10年前のことです。私のアメリカの親戚が大腸癌になり肝転移が有り、ナースが塩酸モルヒネを打ちに毎日自宅に来ている光景に出会いました。10年前ですから日本で在宅という言葉もほとんど使っていない時代で、とてもショックを受けました。(何で入院しないんだろう…)しかし今ならそうは思いません。10年たって社会の状況が大きく変わり、若松でこういうすばらしい会が持たれていますから。徐々にですが、在宅ホスピスに関して認識が変わっていくことを確信しています。

(若松区地域ケア研究会記念誌に掲載)

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